カスタマーハラスメント(カスハラ)の防止措置は、2026年(令和8年)10月1日から事業主の義務になりました。方針や相談窓口は人事・総務が整えますが、電話を受け、メールに返信するのはカスタマーサポートの現場です。本記事では、カスハラ対策のうち現場で決めておく記録と交代の手順を、厚生労働省の指針の原文に沿って電話・メール・チャット別に整理します。
本記事は顧客対応の現場での進め方を整理したもので、法令の解釈を示すものではありません。
この記事の要点:カスハラ対策は「記録・交代・引き継ぎ先」をチャネルごとに決める
顧客対応の現場で進めるカスハラ対策は、3つのことをチャネルごとに決めておく作業です。何を記録に残すか、どの時点で担当者を交代するか、誰に引き継ぐかです。方針、相談窓口、就業規則は会社全体で整える部分で、本記事では扱いません。
表のSV(スーパーバイザー)は、現場でオペレーターを指揮する管理者を指します。
| チャネル | 残る記録 | 交代を考える合図の例 | 引き継ぐ相手の例 |
|---|---|---|---|
| 電話 | 通話録音、対応履歴 | 通話時間、同じ要求の回数 | SV |
| メール・問い合わせフォーム | メール本文、担当者の変更履歴 | 説明のあとに同じ内容が届いた通数 | SV、返信の名義を持つ管理者 |
| チャット | チャットログ | 説明のあとも続く同じ要求や暴言 | SV |
| SNS | 投稿のURL、日時、内容 | 公開の場への投稿を見つけた時点 | 広報や法務などの担当部門 |
合図と相手の列は本記事の整理で、指針が定めた基準ではありません。
カスハラ対策とは:2026年10月に事業主の義務になった内容
カスハラ対策とは、顧客等の言動によって労働者の就業環境が害されることを防ぐために、事業主が講じる措置のことです。根拠は改正労働施策総合推進法(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)です。厚生労働省のウェブページ「職場におけるハラスメントの防止のために」によると、改正法は2025年(令和7年)6月11日に公布されました。防止措置は2026年(令和8年)10月1日から事業主の義務になっています。具体的な内容は、2026年2月26日公布の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が示しています。
厚生労働省のリーフレット(詳細版)1ページは、職場におけるカスタマーハラスメントを次のように示しています。
「職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」
同じページには「電話やSNS等のインターネット上において行われるものも含まれます」とあります。「顧客等」の例には「事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者」も挙がっています。
また、同じページは「顧客等からの苦情の全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではありません」と明記しています。クレーム(苦情)とカスハラは同じ意味ではないため、本記事でも2つの語を分けて使います。
リーフレット2ページは「事業主は、以下の措置を必ず講じなければなりません」として、次の10項目を挙げています。
| 番号 | 措置(原文) | 主に関わる部門 |
|---|---|---|
| 1 | カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する | 経営、人事・総務 |
| 2 | カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容(※)を、労働者に周知する | 現場も関わる |
| 3 | 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する | 人事・総務 |
| 4 | 相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする | 人事・総務 |
| 5 | 事実関係を迅速かつ正確に確認する | 現場も関わる |
| 6 | 被害者に対する配慮のための措置を適正に行う | 現場も関わる |
| 7 | 再発防止に向けた措置を講ずる | 現場も関わる |
| 8 | 特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する | 現場も関わる |
| 9 | 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する | 人事・総務 |
| 10 | 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する | 人事・総務 |
右端の列は本記事の整理で、原文にはありません。2番の(※)の中身は次の章で扱います。
出典:厚生労働省リーフレット(詳細版)2ページ
詳しくは厚生労働省の資料をご確認のうえ、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。
カスタマーハラスメント対策を顧客対応の現場に落とし込む:チャネル別の記録と交代
カスタマーハラスメント対策を現場に落とし込む入口は、顧客対応のマニュアルです。指針6ページは、対処の内容を周知していると認められる例に、「顧客等への対応に関するマニュアル等に」記載して周知することを挙げています。
対処の内容の例は、リーフレット2ページの注(※)では4つ、指針6ページでは7つです。指針は「次の例は限定列挙ではなく、各事業主が、労働者の状況等の実態に応じた対処の内容を定めること」と前置きしています。
| 指針6ページが挙げる対処の内容の例(原文) | リーフレットの注 |
|---|---|
| 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと。 | あり |
| 可能な限り労働者を一人で対応させないこと。また、必要に応じて当該労働者に代わって管理監督者等が対応すること。 | 前半のみ |
| 顧客等とのやり取りを録音・録画すること。なお、録音・録画に当たっては個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこと。 | なし |
| 労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること。 | なし |
| 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること。 | あり |
| 現場対応が困難な場合においては、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと。 | あり |
| 法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談すること。 | なし |
リーフレットの注にない3つ、つまり録音・録画、電話を切ること、弁護士への相談は、顧客対応の現場に関わりの深い項目です。
電話:録音と、SVに交代する合図
電話で決めておくのは、録音の扱い、SVに交代する合図、通話を終える条件の3つです。
録音について、指針は上の表の3行目で個人情報保護法等の遵守を求めています。厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」の問10(15ページ)は、利用目的を通知又は公表する義務を次のように説明しています。
「当該義務は必ずしも録音・録画していることについてその場で伝える義務まで含むものではない」
同じ問10には、不正の手段による個人情報の取得を禁じるただし書きが続きます。問9(14ページ)は、録音を事実関係の確認に使う場合の利用目的の特定に触れています。自社の録音の案内がこれらに照らしてどうかは、原文をご確認ください。
交代について、指針は対処の内容の例として「可能な限り労働者を一人で対応させないこと」を挙げています。電話対応の現場では、オペレーターがSVに交代を求める合図(エスカレーションの基準)を決めておくと、判断がしやすくなります。通話時間や同じ要求の回数など、数えられる形にするのがポイントです。
日本コンタクトセンター協会は、ガイドライン第二版の紹介ページで、判定ラインの例を「長時間拘束は1時間以上、リピートは3回以上」と紹介しています。自社の業務に合わせて基準を決める際の参考になります。
通話を終える条件について、指針の例には「労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合」という前提があります。何を説明すれば十分とするか、「一定の時間」を何分とするかをマニュアルに書いておくと、指針の例と対照しやすくなります。AIから人への交代は引き継ぎの設計を扱った記事(英語)で取り上げています。
メール・問い合わせフォーム:同じ内容が繰り返し届くとき
メールでのカスハラは通話時間では測れません。指針4ページは例として「同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけること」を挙げています。現場では、同じ顧客からの問い合わせを1つの対応履歴としてつなげて見られることが前提になります。
メールは文字が残る一方で、担当者ごとの受信箱に分かれやすく、周囲が気づきにくいチャネルです。決めておくのは次の3点です。
- 同じ顧客のメールとフォーム送信を、担当者の変更も含めて1つの対応履歴で見られるようにする
- 交代の合図を、同じ要求に何回説明し、そのあと何通届いたかで数える
- 何通目から誰の名義で返信するかを決める
通常のクレームでも、催促のメールが続くことは珍しくありません。通数だけで判断せず、説明を尽くしたかどうかもあわせて記録しましょう。
チャット・SNS:ログの保存と、担当者個人で反論しないこと
チャットでは、やり取りの文字がそのまま記録になります。決めておくのは、対応中の担当者がSVに知らせる方法と、SVが途中から対応を代わるときの手順です。交代後に顧客の画面へ表示する名前も決めておきましょう。日本コンタクトセンター協会の紹介ページは、オペレーションルールの例に「切電、ビジネスネーム」を挙げています。
SNSなど公開の場への投稿は、1対1のやり取りとは分けて扱います。指針3ページの例には「SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等をすること」があります。現場の担当者は返信で反論せず、投稿のURL、日時、内容を保存します。そのうえで、広報や法務などあらかじめ決めた部門に引き継ぐ流れにしておくと、オペレーター個人が矢面に立たずに済みます。
対応履歴に残す項目と、引き継ぎの3段階
対応履歴に残す項目や様式は、指針では決められていません。指針9ページは再発防止に関して次のように述べており、文末は「考えられる」です。
「必要に応じて事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門に共有し、再発防止に活用することも考えられる」
そのため、チャネルが違っても同じ項目で残せる形を自社で決めておくことになります。次の表の中央の列は本記事の提案で、指針の定めではありません。
| 指針の原文 | 残す項目(本記事の提案) | 取得元の例 |
|---|---|---|
| 「事案の内容や対応経緯を記録し」(9ページ) | 日時、チャネル、顧客の発言や文面(評価を加えず原文のまま)、説明した内容と回数 | 通話録音、メール、チャットログ、スクリーンショット |
| 「録音・録画等の客観的な証拠を確認したりする」(8ページ) | 録音やログの保存場所と保存期間 | 電話システム、問い合わせ管理システム |
| 「行為者に対応する担当者の変更又は複数人で対応すること」(8ページ) | 交代を求めた時刻、交代後の対応者、対応の終え方 | 対応履歴 |
| 「被害者のメンタルヘルス不調への相談対応」(8ページ) | 担当者のその後の状況、相談窓口につないだかどうか | SVの記録 |
引き継ぎは3段階で決めておくと、渡す記録も決まります。段階の分け方は本記事の整理です。
- SVや管理者がその場で代わります。指針の例は「必要に応じて当該労働者に代わって管理監督者等が対応すること」です。録音やログと、それまでの説明内容を渡します。
- 本社や主管部門に共有します。指針の例は「本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと」です。対応履歴の全体を渡します。
- 警察や弁護士につなぎます。指針の例は「警察へ通報すること」と「弁護士へ相談すること」です。誰が判断するかを先に決めておきます。
記録には顧客の個人情報が含まれます。閲覧できる人と保存期間は、自社の個人情報の管理規程とあわせて確認しましょう。
海外顧客や外国語でのやり取り、顧客対応を外部に任せている場合
外国語でのやり取りでは、担当者やSVが内容を正確に読み取れないと、交代の判断も記録もできません。翻訳ツールで読む場合は、原文と訳文の両方を対応履歴に残します。あわせて、その言語で対応を代われる人を決めておくことが前提になります。Callnovo.ai の HeroDash では、追加オプションとして100以上の言語のリアルタイム翻訳を利用できます。
顧客対応を外部の会社に委託している場合に関係しうる指針の原文は、次の2か所です。1つ目は派遣についての2ページの記述です。
「労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者についてもその雇用する労働者と同様に、3⑴の配慮及び4の措置を講ずることが必要である」
2つ目は、自社が雇用していない人についての12ページの記述です。
「職場における当該事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者及び個人事業主等の労働者以外の者)に対する顧客等の言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい」
委託契約で事前に話し合っておくことを、質問の形で挙げます。
- 交代と対応終了のルールは、どちらの会社が決め、どの文書に書きますか。
- 委託先のオペレーターが被害を受けたとき、委託元へ報告する経路と期限はどうなっていますか。
- 録音と対応履歴はどちらが保管し、何日残し、委託元は取り出せますか。
- 顧客への警告やサービス提供の停止は、誰が決めますか。
- 委託先が海外にある場合、記録はどの国に保存されますか。
詳しくは厚生労働省の資料をご確認のうえ、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。
ツールで支えられること・支えられないこと、Callnovo.ai が合わない場合
ツールが支えられるのは、記録を1か所に集めること、SVが状況を見て対応を代われるようにすること、引き継ぎの経過を残すことの3つです。ある言動がカスハラに当たるかどうかの判断や、方針・相談窓口の整備は、ツールでは代わりになりません。指針2ページは、この判断について「様々な要素」を「総合的に考慮することが適当である」としています。AIによる検知も、SVに知らせる合図の1つにとどまります。
Callnovo.ai が合わない場合
- 顧客が日本国内にいて、日本語だけで対応しているチームには、国内の通話録音システムや問い合わせ管理システムのほうが合うでしょう。
- 方針、就業規則、相談窓口、研修の整備は、社会保険労務士、弁護士、研修会社の領域です。
- 日本語の管理画面が必須の場合は、その点を検討の最初に確かめてください。
- 録音や対応履歴を日本国内に保存する必要がある場合は、保存先の確認が先になります。データの保存先は標準で米国です。
現場で決めておくことのチェックリストとまとめ
カスハラ対策を現場で動かす出発点は、交代の合図と引き継ぎ先が、オペレーター全員に同じ言葉で伝わっていることです。電話・メール・チャットのそれぞれで、次の項目を確かめましょう。
- 通話録音の利用目的と保存期間を確認する
- 同じ顧客からのメールを1つの対応履歴で見られるか確認する
- 対応履歴に残す項目を全チャネル共通で決める
- 電話でSVに交代を求める合図を、通話時間と回数で書き出す
- チャットの対応中にSVへ知らせる方法を1つに決める
- 通話を終える前に行う説明の内容をマニュアルに書く
- 本社、警察、弁護士へ引き継ぐ判断をする人を決める
- 決めた内容を研修でオペレーター全員に伝える
- 外国語のやり取りを代われる人と、訳文の残し方を決める
- 委託先がある場合、報告の経路と記録の保管先を契約書で確認する
詳しくは厚生労働省の資料をご確認のうえ、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。
まとめ
現場で進めるカスハラ対策は、記録、交代の合図、引き継ぎ先の3つを、電話・メール・チャット・SNSごとに決めることから始まります。指針が挙げる例と自社のマニュアルを並べて、足りない項目を確かめましょう。最後に、次の3つを確かめてみましょう。
- 先月、オペレーターがSVに交代を求めた回数をすぐに答えられるでしょうか。
- 同じ顧客から届いたメールを、担当者が変わっても1つの流れで読めるでしょうか。
- 外国語で届いた暴言を、原文のまま読める人が社内にいるでしょうか。
答えにくい項目があれば、そのチャネルの手順から見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
出典
参照日はいずれも2026年10月11日です。
